書籍・雑誌

2011年11月15日 (火)

コーヒーハンター

Coffee_hunter 
  ちょっと前に読んだ本ですが、、、とても面白かった本です。

 静岡のコーヒー豆屋さんに生まれ、高校を卒業してすぐ、コーヒーの勉強のため、中米の小国エルサルバドルに留学された著者の川島良彰さん、通称ホセさんは、そこでコーヒー豆の栽培をみっちり学び、25歳にしてジャマイカのブルーマウンテンコーヒー園の農場長に抜擢され、以降、ハワイ、インドネシア、などでコーヒーの開発にずっと携わってこられた方です。その彼の半生が、歴史に埋没していた幻のコーヒー、「ブルボン ポワントゥ」をアフリカのレウニオンという小さな島で発見して復活させるまでの苦闘記と併せて、とても興味深く語られています。とにかく情熱的な方で、コーヒー栽培に従事したいという思いで、留学後、すぐに家業を継いでほしいと願う父親と衝突して勘当されてしまったり、幻のコーヒーを求めて世界中を飛び回ったりと、その行動力に驚かされます。内戦中のエルサルバドルの話も出て来ますが、さすがに現地で生活されていた方の話なので、とても臨場感があります。あまりに内戦が酷くなったときにロスに避難してタコス屋さんでバイトして凌いだ話も面白かったです。ぼくも、カリフォルニアで働いていたとき、内戦から逃れてきたエルサルバドル人達と一緒に仕事をした経験があるので、とても、親近感を憶えました。

 また、この本で初めて知ったのですが、コーヒー産業は、実に世界で1億2千万の人が関わっている、人口ベースでは世界最大の産業なんですね。だから、コーヒーを知るといろんなことが見えてくるんです。というわけで、この本を読んでから、ラテンアメリカの国々にとっても重要な産業でもあるコーヒーについてとても興味が出て来ました。

実は、川島さんは、恵比寿時代のサルシータに、一度、お客さんとしてみえたことがあります。コロンビア人の有機アボカドを輸入している会社の社長さんやコーヒーの仕事をされている方と一緒でしたが、とても社交的な感じの方でスペイン語もさすがに上手でいらっしゃったのを憶えています。サルシータのタコスを褒めて下さったことも。

先日、麻布税務署に行った帰りに、すぐ近くにある川島さんが現在やってらっしゃる超高級コーヒーのカフェにお邪魔して、エルサルバドルの農園産のとても美味しいコーヒーを頂きました。昔、訪れた、エルサルバドルの美しい風景を想いながら、、、

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2011年10月25日 (火)

超格差社会アメリカ

Kakusa 年の初めに、「今年は激動の年になりそうな予感がする。」と書きましたが、怖いくらいに予想が当たって驚いています。

 ジャスミン革命に端を発した中東の民主化運動は、長年続いたリビアのカダフィ政権を倒してしまいました。

ギリシャが経済的に破綻して、それを救おうとするとEU自体が泥沼に引き込まれそうな不安定な状態にありますし、ウオール街での格差社会に対するデモもネットを通じて世界に拡大しそうな予感もあります。

 自由で平等な国と言われていたアメリカが、実は超がつくほどの格差社会だったことは、薄々感じていましたが、具体的に説明されて納得がいったのが、数年前に読んだこの本でした。

「超格差社会アメリカの真実」 小林由実著

確か、読み終わったときにこのブログで紹介しようと思いながら、忙しかったのと、一読しただけでは、内容を十分にまとめられないほどの情報量だったのでそのままになっていました。

 今、ちょっと読み返していますが、ここに出てくる印象的な言葉に(アメリカでは)「メイキングマネーが尊敬に値する唯一の行為」というのがあります。逆にヨーロッパでは、富裕であること「ハヴィングマネー」は良いことだが、「メイキングマネー」は悪いことだったと、、、貴族社会だったヨーロッパでは「家柄」が大切で、富はそれに付随しているものなので、自らメイキングマネーに走るようなことは、はしたないとされる。一方、そんなヨーロッパから逃れた移民の社会であるアメリカでは、ゼロから這い上がって富を築く、「メイキングマネー」したものが尊敬される、ということです。

 であるからして、誰でも努力すれば大金持ちになれる、アメリカンドリームに憧れるというわけでしょう。このブログで取り上げたテキーラ「パトロン」のオーナーなんかいい例ですよね。

しかし、その「メイキングマネー」だけが、あまりに追い求められた故、「金融工学」なる現代の「錬金術」が発明され、「グローバリズム」なる「現代の奴隷制度」の一面を持つものが推進されてきたのではないでしょうか?

 その結果が今の「超・格差社会 アメリカ」だと思います。これではいかんと、低所得者層にもクレジットで無理やり家や車を買わせた挙句の経済危機、企業を救うために税金を拠出しておきながら、その企業は人件費カットのために大規模な解雇で失業者を増やす、、、

 そんな社会を変えてくれるかと期待したオバマさんも全くの期待外れだったことで、今回のようなデモが起こったのでしょう。民主主義のお手本だったはずのアメリカが強欲な経営者やウオール街の住民によってこうも悲惨な国になってしまったのは残念ですが、本当に危機的な状況にならないと本当の「変革」は始まらないのかもしれません。希望を失わないようにしたいです。

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2011年10月 3日 (月)

ただいま食事中

Kuneru 「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、ここのところ、一気に秋めいてきました。今年も3/4が終わったわけで、速いですね。

 サルシータのメニューも秋に模様替えです。定番のケーキ、トレスレイチェスも栗バージョンになりました。10月はきのこをたくさんメニューに加える予定です。こうご期待!

 さて、先日、マガジンハウスさんからある本が送られて来ました。「よりぬき ただいま食事中」という本で、「クウネル」という雑誌に掲載されていた、さまざまな分野の「食」にうるさい30人の人たちが、外食したり自炊したりして、それぞれ毎日食べたものを写真と文で記録しているのをまとめた本です。

 そのなかにスタイリストの桜田理香子さんという方が恵比寿時代のサルシータで出していた「ビーフファヒータス」を紹介して下さっていたんですね。どうもオリジナルの記事は2005年に出たもののようです。僕は、全く知りませんでしたが、、、桜田さんという方は細身でバンビのような可愛らしい風貌の方なのに、食生活はものすごい肉食派で、紹介されているお店は全部ガッツリ系の美味しそうなお店ばかりというところが面白いですね。

 仕事の合間なんかにちょっとずつ読んでいますが、美味しそうなもののオンパレードで、ここに出ている皆さんの食べることに対する情熱に圧倒されます。少しでも美味しいものを食べてやろうと絶え間なく工夫を凝らしたり努力したりしているところに敬服しました。美食を追い求めるということは、或る意味、知的なゲームなのかも、、、

 

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2011年7月19日 (火)

ペドロ・パラモ

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  • 先週、取り上げたタイム誌の記事"Mexico's tragedy"に、メキシコの小説家ファン・ルルフォの代表作(といっても彼は2冊しか書いていないけれど)の「ペドロ・パラモ」の文章が紹介されていて、現在、麻薬戦争撲滅運動を先導している詩人、小説家のハビエル・シシリアが、この、死者に物語を語らせるという前衛的な手法を取っている小説を、現代の麻薬戦争の犠牲になって死んでいった人達の声を甦らせようという意味でシンボルのように使っているという話が出てきていました。

   この「ペドロ・パラモ」という小説は、20世紀初め頃のメキシコ革命の時代を背景に、舞台は「コマラ」という架空の町ですが、おそらく作者のルルフォの故郷であるハリスコ州あたりをモデルに書かれていると思われます。そこは、法や正義よりも欲と暴力が支配する世界で、ある意味、現代の麻薬戦争真っ只中のメキシコにとても似ています。

 主人公のペドロ・パラモは、貧しい家の出ながらも悪知恵と暴力を駆使してコマラ一帯の支配者になっていき、何人もの女性を手に入れるが、唯一心から愛した幼なじみの女性スサーナを救ってやれない。息子は、父親似でさんざん悪さをした挙句、早死にしてしまう。そして彼自身の破滅も始まっていく、、、という大まかなストーリーです。

 200ページほどの中編ですが、構成が独特で、70あまりの短いエピソードが集められていてそれが、必ずしも時系列に並んでいるわけではないのですね。現在と過去が入り混じっていたりする。しかもそれらの多くはすでに死んでいる者たちの独白だったりします。ある登場人物が出てきて何かした後、実はそれが既に死んでいる人物だったと明かされたり、、、その断片たちをパズルのように組み合わせていくと全体の流れがようやく見えてくるというわけです。

 今回、久々に読み返してみましたが、その文章の力に圧倒されました。むき出しの人間の欲や生命力溢れるみずみずしい自然の描写と、「こんな人生なんてくだらねえや!」(ある登場人物の台詞)というメキシコらしい虚無感に荒涼とした大地との対比もすごいです。

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2011年7月12日 (火)

MEXICO'S TRAGEDY

Time_2 先日、いつものようにナショナル麻布スーパーのレジに並んで、目の前にあった英語雑誌の表紙を何気なく眺めていると、とても衝撃的な言葉が眼に飛び込んできました。

 MEXICO'S TRAGEDY(メキシコの悲劇)

思わず手に取って買い物カゴに入れ、お店に帰ってから開いてみると、やはり、というか、ここ数年、一般人を含めて多くの犠牲者を出している麻薬戦争の話でした。

 ぼくが海外に居たころ、今から14年から20年くらい前ですが、麻薬戦争が最も盛んで、最大の犠牲者を出していたのは、コカインの生産国であるコロンビアでした。1993年にコロンビアを訪れた時、泊っていたホテルの前に戦車が止まっていてびっくりした思い出があります。テロ対策で、あちらこちらでバッグを開けさせられ、爆弾を持っていないか調べられたりもしました。

 しかし、今や麻薬戦争の主戦場は生産国のコロンビアから運搬の経由国のメキシコに移っていて、メキシコの麻薬絡みの殺人事件の被害者は、去年、1万5千人以上と5年前の7.6倍にもなっているそうです。特に国境地帯の暴力は凄まじく、フアレスという町では昨年だけで3200人が殺されて、「世界で最も危険な町」という称号を得ています。ここも、僕が昔訪れた時には、穏やかな町、という印象だったんですが、、、

 この辺りの事情は、ドン・ウイズロウの小説「犬の力」に書かれていたとおりになっていますね。麻薬の生産は、ちょっと乱暴に言えばどこでも出来る。けれど、麻薬の最大の消費国はアメリカ合衆国、そしてこの国に隣接していて長大な国境線を共にしているのはメキシコ。この事実は変えようがない。そして、流通を支配するものが、巨大な麻薬マネーを手にする。薄給で働いている警察官を簡単にリクルート出来るくらいの、、、銃大国の合衆国から武器はいくらでも手に入る。メキシコの昔の大統領の言葉、「メキシコは、神からあまりにも遠く、合衆国からあまりにも近い。」という言葉を思い出します。

 希望も少し。記事は、今、メキシコで盛り上がっている、市民主導の麻薬戦争撲滅運動にも触れています。この運動を先導しているのは、メキシコの最も著名な詩人、小説家のハビエール・シシリア。実は彼の息子フアンが、今年の3月、麻薬絡みのトラブルに巻き込まれて殺されたのです。それをきっかけにハビエールが立ち上がり、麻薬戦争撲滅運動を開始、40以上の都市が呼応してメキシコ国内で大きな流れを作りました。5月には、メキシコシティに20万人が集まって大規模なプロテストが行われたようです。彼らは、とてもメキシコ的な言い回しで、こう叫んでいます。"Estamos hasta la madre!"(俺たちはもうたくさんだ!)

 

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2011年7月 7日 (木)

いのちの半ばに

Inochi  前から気になっていた作家、アンブローズ・ピアスの短編集「いのちの半ばに」を読みました。

 彼はアメリカの1842年生まれの作家で、短編作家としては、芥川龍之介にも絶賛されたほどの名手でしたが、ジャーナリストとしても辣腕を奮い、ニガヨモギと酸をインクの代わりに用いると評され、ペン1本で簡単に人を殺すことも出来ると恐れられた存在でもあったようです。

 筒井康隆さんが惚れ込んで訳した「悪魔の辞典」という怪書?を著したりと、とてもシニカルな作風で知られていますが、確かにあの本(僕は原書でちらっと読んだだけですが)には、筒井作品に通じるブラックユーモアを感じました。

 さて、南北戦争の時代を背景にしたこの短編集には、筒井作品というよりは、星新一さんのショートショート作品に通じるような短さと最後の切れ味鋭いオチが特徴的な作品が7つ収められています。そして、全てが死を目前にした人間の悲喜劇のようなお話になっています。考えてみれば、この短編集の中の一人の登場人物が語っているように、死というものは、誰も経験して語ったことが無い、つまりは全ての生きている我々にとっては、フィクションに過ぎないのだから、サイエンスフィクションに感じが似てるのかもしれません。

 死という重いテーマに向きあっても、諧謔的な視点で描き出すというところに、彼の反逆精神を感じますし、そういうふうに死を、或いは人生そのものを滑稽な対象としていくぶん醒めた視線で見るところには、"La vida no vale nada."(人生なんて生きる意味が無い)と唄って盛り上がるメキシコの有名な大衆歌謡の精神に通じるものを感じます。

 実際、彼は、晩年、祖国であるアメリカ合衆国に幻滅して、革命の戦火に燃えるメキシコに向かい、そこで失踪、謎の死を遂げています。こんなに様々な「死」を作品に取り上げた彼は、自分の死に方にもこだわったのではないか? ビアスが、メキシコ文化に根ざす祝祭的な「死」のイメージに共感して、自分の死に場所をメキシコに求めたことは想像に難くありません。

 ビアスのメキシコでの失踪事件については、メキシコの著名な作家、カルロス・フエンテスの小説「老いぼれグリンゴ」で触れられていて、ぼくは、この本でビアスのことを知りました。この作品はハリウッドで映画化されていて、ビアス役は、渋いグレゴリー・ペック、ヒロインはジェーン・フォンダが演じていました。

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2011年6月20日 (月)

アマンダの恋のお料理ノート

510mb2cyf3l__sl500_aa300_先週、ちょっと触れた 「ジュリー&ジュリア」の中に、ニューヨークタイムスの女性料理記者、アマンダ・ヘッサーが、ジュリア・チャイルドのレシピに挑戦しているジュリーのブログの評判を聞いて、ジュリーの家に取材に来たエピソードが書かれていました。

 この本は、そのニューヨーク在住の料理記者、アマンダが自身の恋愛の様子(初デートから結婚式まで)を綴りながら、そんな彼女の生活に登場する美味しい料理のレシピを添えたものです。面白くて、一気に読んでしまいました。

英語の原題は"Cooking for Mr. Latte"で、これは、初デートで入ったレストランでウイットに富んだ会話で楽しませてくれたハンサムな彼が食後にカフェラテを注文したことから、アマンダが将来の旦那さん、タッドに「ミスターラテ」とあだ名を付けたからだそうです。彼女、そして多くの食通な人達によると食後に頼むのは、絶対にエスプレッソで、カフェラテなんてとんでもない!らしく、魅力的に見えた彼が、食事の最後にカフェラテを頼んだとたん、グルメなアマンダはずっこけちゃったんですね。

 食後にカフェラテを頼む人、サルシータにはけっこういらっしゃいますけどね、まあ、うちのようなカジュアルなお店だから良いでしょう。まあ、フルコースのディナーにデザートまでたっぷり食べた後だったら、やはりエスプレッソのほうが欲しくなるかな、、、

 さすがにグルメな彼女の生活に登場する料理だけあって、添えられているレシピは、とても美味しそうです。忙しいニューヨーカーの食事らしく、シンプルなものが多いので作りやすそうだし。結婚を前に、マンハッタンからブルックリンハイツに引っ越した彼らを友人が「偽っこブルックリン」とからかうところが面白かった。あと、雑誌「ニューヨーカ―」の記者であるタッドの台詞、「サリンジャーをご覧、ベジタリアンになったとたんに一冊も書かなくなった。」というのもなるほどー、という感じ。田舎に住む彼女の85になるおばあちゃんのお話が面白かった。働き者で料理好きで、イタリアに旅行に行っても、アメリカ式の食生活を変えない頑固者で、、、そして彼、ミスターラテのおかあさんは、まさにジュリア・チャイルドに洗礼を受けた世代で、キッチンの壁にジュリアが広めた、穴の空いたコルクボードがかけてあった、という話にも、ふーんという感じでしたね。ジュリアの自伝にも、彼女が夫のポールにこのボードを作ってもらう話が出ていましたからね。

 メキシコ料理のレシピも出てくるかな?と期待したのですが、僅かにテキサス式のコーン入りのサルサが出てきた程度でした。残念!これが、カリフォルニアやテキサスの人が書いた本だったら、もっと出ていたんでしょうけどね。

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2011年6月14日 (火)

ジュリア・チャイルド

Juliachildmylifeinfrance  ジュリア・チャイルドという、とても有名な往年のアメリカの料理研究家のことを、あちらに数年暮らしたことがあったのに、知りませんでした。

 初めて知ったのは、2年前くらいに、ジュリー・パウエルというニューヨークに住む女性が、ジュリアの有名料理本"Mastering the Art of French Cooking"の中のすべての料理を1年がかりで作る、というプロジェクトをブログで公開して話題になり、最終的に映画化までされたからでした。サルシータの隣のパン屋さんの上に、主演のメリル・ストリープがローストチキン用の丸鶏を大きく広げて満面の笑みを浮べている大きな映画の宣伝ポスターが貼られていたのです。

 そのときは映画が気になりながらも、映画館で映画を観る余裕は、ここ数年、まったく無いのでそのままになっていました。ところが、ここのところ、いろんな料理に関する本をアマゾンで買って読んでいると、おススメ本として、あの映画の原作本「ジュリー&ジュリア」が紹介されていたので、取り寄せて読んでみました。そこには、料理番組の元祖とでもいうべき、ジュリア・チャイルドのテレビショウ「フレンチ シェフ」や、件の本「マスタリング~」が70年代のアメリカで、どれだけ人気があり、ジュリアという女性が当時の主婦たちに愛されていたかが書かれてあり、ジュリア・チャイルドという女性に対して、とても興味が湧いてきました。

 そこで、彼女の自伝”My Life in France”を取り寄せて読んでみました。久々の英語本です。内容はこの時、90歳近い高齢の彼女の語りを、ライターである甥のアレックス・プルドームがまとめたようです。特に料理に興味を持たず、第2次世界大戦直後に大使館勤務の夫のポールに付いてパリに渡り、そこで本物のフランス料理に出会って衝撃を受けたところから、パリのコルドンブルー料理学校での勉強の日々、楽しかったパリでの毎日の様子が生き生きと書かれていて、とても面白かったです。何より、ジュリアの楽観的で正直、そして前向きなところが好感が持てます。リベラルで外国文化や芸術に造詣が深い夫のポールに対して、保守的で頑固者、共和党支持のタカ派で芸術に興味の無い父との葛藤や母国アメリカでのマッカーシーの赤狩りの時代のこと、アメリカで、手間を惜しまずに作る本物のフランス料理の本を世に出したくて、あちこち掛け合うものの、簡単で早く出来る料理でないと売れないから駄目だと軒並み断られる話とか、時に気難しくなるフランス人のパートナー、シモン・べックとの関係とか、ネガティブなところもあるのですが、彼女は持ち前の明るさでこれらを克服していきます。

 一途な彼女は誰でも失敗せずに作れるマヨネーズのレシピを完成させるために、何度も何度も、たくさんの卵と油を使いながら涙苦しいまでに実験していきます。何冊かの著名な料理本を参照してみて、それらに出ているレシピがけっこう、いい加減なことを暴露してるところは、ぼくにも思い当たることがあるので、笑ってしまいました。こんな、正直で一途なところが彼女を成功に導いた原因なんでしょうね。

 この本と並行して、何冊かのアメリカ人の書いた料理に関する本を読んでいたのですが、そのどれもに、ジュリア・チャイルドという名前が一度は出てきていて、彼女は2004年に亡くなっているのですが、その影響力は、まだまだすごいんだなと思った次第でした。

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2011年6月 7日 (火)

レオノーラ・キャリントン

Photo  ちょっと前に、新聞で、メキシコに長く暮らして活躍したイギリス出身のシュールリアリズムの画家、レオノーラ・キャリントンの訃報を見つけました。去る5月22日に亡くなったようです。94歳でした。

 彼女のことは、二年ほど前に受けたジャパンソサエティで受けたメキシコの芸術家達についての講義に、彼女とレメディオス・バロについての回があって、それで知りました。

 メキシコの女性画家というと、フリーダ・カーロが圧倒的に有名ですが、彼女以外にも、こんなシュールでメルヘンチックで不思議な絵を書く人がいるんだ、と驚いたのです。(彼女もバロも出身はヨーロッパですが)

 レオノーラさんは、絵以外にも、文学の才能もあって、小説も書いています。今回、彼女の長編小説、「耳らっぱ」を読んでみました。とても面白かったです。

511tns7782l__bo2204203200_pisitbsti  主人公は92歳の老婆マリアンで、キャリントン自身がモデルになっています。(これを書いた時、彼女は40才代で、実際には94まで生きたことになります。)歯が一本も無く、耳もほとんど聴こえない彼女が、親友のカルメン(こちらはバロがモデル)から「70歳以下の人間と7歳以上の人間を信用してはだめよ、猫でもないかぎりね。」というアドバイス?と共に、それを着けると他人の声がとてもよく聴こえるようになる耳らっぱをプレゼントされた時からいろいろなことが起こりだします。

 まず、息子夫婦に、家族の厄介者として老人ホームに入れられます。そこで70才以上100才未満の老女9人の奇妙な集団生活が始まり、そこにあった一枚の奇妙な絵から中世の伝説が甦り、そこに殺人事件や天変地異が巻き起こり、、、話はすごい勢いで進んでいきます。

 とにかく、92歳のマリアンや他の老女たちが自由闊達で想像力豊かで驚かされます。老いて行くというのは、どちらかというとネガティブなイメージですが、これなら悪くない、というか、楽しそうだな、と思えてきます。

 そして、話はさすがにシュールリアリストらしく、生き生きとした想像力に満ち溢れているのですが、実はキャリントンのルーツはアイルランドにあって、そこにケルト的な妖精や神話の世界が編みこまれているのと、キリスト教の伝説が下敷きにあるところはヨーロッパ的だな、というか、やはりブニュエルもそうですが、(そういえばこの本の帯には彼による推薦の言葉がありました)キリスト教やヨーロッパ的なものが下地にあって、そこに対する反発から始まっているのかな、という印象を受けました。

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2011年2月22日 (火)

世界を食いつくせ(A COOK'S TOUR)

Coocs_tourまだまだ、寒いですけど、もう2月も終わりの週に入り、春も近いですね。朝、起きるのが辛いので、早く暖かくなって欲しいものです。

 今月の初めのブログで、「今年は激動の年になる予感」と書きましたが、実際、そんな感じになってきました。アラブで起きている反政府運動のドミノ現象は、アジアにもやって来たようです。そういえば、89年のベルリンの壁崩壊と東欧の民主化のときは、直前に天安門事件がありました。アジアからヨーロッパへと民主化運動の流れが伝わったのですが、今回はアラブで起きた民主化運動がアジアにやって来たようです。しかも、今回はツイッタ-とフェイスブック付きで。

そんな、激動の世界ですが、ぼくは自分に与えられた仕事を全うするだけです。今年は、本物のメキシコ料理を日本に紹介するために、さらにステップアップしていきたいです。

 さて、そんな毎日の息抜きの読書ですが、去年後半から「食」に関する本を読むことを裏テーマにしています。(表はもちろん、メキシコに関する本です。) そんななか、最近の大ヒットがこの本 世界を食いつくせ(A COOK'S TOUR) アンソニー・ボーディン著 です。

著者のアンソニー・ボーディンは現役のニューヨークのフレンチレストランのシェフで、彼の前作、レストランの裏事情を暴いた「キッチン コンフィデンシャル」を数年前に読んで、おおいに楽しみ、そして勇気付けられたので、今回も期待して読んだのですが、やはり面白かった。

 今回は、前作がベストセラーになり、有名になったトニー(アンソニーの愛称です)がテレビ局のクルーを従えて世界中を巡り、そこで食べられているものを現地の人達と一緒に食べる、という企画を本にしたものです。ポルトガルに始まり、フランス、ベトナム、スペイン、ロシア、カンボジア、等々、メキシコと日本にも来ています。

 読み始めてちょっとして、もう読み終わるのが惜しくなりました。この人は、やはり文章が巧い!まあ、単純にぼく好みなだけかもしれませんが、、、ニューヨークで有名になり、パブリシティや番組出演に追われて仕事場にあまり姿を見せなくなったトニーを部下のメキシコ人シェフ達が「ピンチェ ファモーソ」(ろくでもない有名なやつ)と呼んでいるといった件りには大笑いしました。実際にニューヨークのキッチンで働いたことがあるので、この様子がリアルに想像できたのです。

 たぶん、トニーはマフィア物やハードボイルドな小説が好きなんでしょうね。文章にそんな感じが見て取れる。タフな文章、そしてそれとは裏腹なちょっとへなちょこな自分の心情も隠さずに吐露しているので、そのギャップが面白いのです。本当はとても優しい人なのでしょう。「男はタフでないと生きていけない。優しくなければ生きる資格が無い。」フィリップ・マーロウの名台詞を思い出しました。そして、シェフ稼業の辛さを語るときは、同業者なので、思いっきり共感してしまいます。そして、今回もとても勇気付けられました。ありがとう、トニー!

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