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2010年12月31日 (金)

バベットの晩餐会

51cbyiixcel__sl500_aa300_  実は、今年の秋くらいから料理に関する本を読むのにハマっています。考えてみれば、料理を仕事にしているのに、あまりこの分野について知らなかったなあ、と思って、、、

 そして、この、デンマークの女流作家イサック・ディーネセン(このペンネームは男みたいですが)の「バベットの晩餐会」は最近読んだなかでも一番と思えるほど、心に残った名作でした。

 ノルウエイのある寒村に住む、若い盛りをとうに過ぎた、つつましく暮らすプロテスタント教会の牧師の娘姉妹のもとに、ある人物の紹介で一人のフランス人女性がやって来て女中として働きだす。

バベットという、その中年の女性は多くの血が流された1871年の「パリ・コミューン」の騒動で家族を殺されて命からがら、このノルウエイの田舎まで逃げてきたのだった。バベットは働きだすと、その見事な料理の腕前で、主人姉妹を、村の市場の人達や他の人達まで魅了していく、、、

 この辺りまでは、前に紹介したブラックユーモアの「料理人」に似てるんですが、ここからの展開が大違いで、バベットは、そうやって14年ものあいだ、姉妹に静かに仕えます。そして、ある日、昔、パリで買った富くじが大当たりをして一生、楽に暮らせるほどの大金を手にします。すると、彼女は、そのお金を自分のために使おうとしないで、お世話になった老姉妹や村の人達のために豪華な晩餐会を催すことに決めます。そして、雪の降り積もる寒い夜に行われたその晩餐でバベットは、フランスから高価な材料を取り寄せ、腕によりをかけて、村の人々がそれまで見たことも無いような豪勢な料理を次々と繰り出し、その信じられないほどの見事な料理で村の人々を悦びで満たします。晩餐が終わると、空には満点の星空が広がっていて、幸福感に包まれた村の老人達が雪の中、スキップをしながら家路につく情景に心がなごみます。物語の最後で、バベットは、実は、パリの一流レストランの料理長をしていたという事実が明かされます。

 心をこめた素晴らしい料理が、人をこうも幸せな気分にすることが出来るのかという驚き!短い小説ですが、その中に、実はいろんな対比が盛り込まれていてとても豊かな物語になっています。プロテスタントとカトリック、豪華絢爛な生活と質素で堅実な生活、大都会と片田舎、貴族と大衆、芸術と信仰と革命、、、

 バベットは14年もの間、つつましい生活を送る一人の中年の女中でしたが、その晩餐会のためだけに手にした大金をすべて使って自分の料理という崇高な芸術を完成させた一流の芸術家になったのです。

 昔、パリで彼女は貴族や金持ち相手に芸術的な料理を作っていました。料理は評判を呼び、称賛されました。しかし、その時の彼女は幸せだっただろうか?自分とは違う階級、世界に住む人達に料理して、、、その後、ノルウエイの田舎で、金銭的では豊かではないけれど、誠実で勤勉な生活を送る人々のために質素ながら心温まる料理を作って長い間感謝されました。芸術家としての「エゴ」は封印して、、、そのときの彼女は?

 そして、素晴らしい料理を作りたいという、長い間抑えていた、彼女の芸術家としての「エゴ」が、くじで思いがけずに手にした大金、というきっかけで爆発し、結果として質素な生活を送っていた村の人々を素晴らしい幸福と高揚で満たす、、、

 真に素晴らしい料理とは?人生とは?短いけれどとても心に残ったお話でした。

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