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2006年8月28日 (月)

悲劇週間

 1910年代に勃発したメキシコ革命の模様を、当時日本のメキシコ領事の子息として偶然居合わせた、当時20才だった後の詩人、仏文学者の堀口大學の眼を通して描いた小説、「悲劇週間」(文藝春秋刊)を読み、束の間、そのロマン溢れる世界に酔いしれました。

 詩の世界に惹かれながらも将来の進路に悩んでいた大學青年に、日本初の外交官としてメキシコに赴任していた父からフランス語の勉強になるからと、お呼びがかかり、日本とは全く異なる未知の国に訪れてみたら、まさに、その時、革命の火の手が上がったところだった、、、という設定で始まる物語で、青春真っ只中の20才の大學が、メキシコの祝祭的な空間の中で、複雑な国際情勢を睨みつつ、まだ近代国家になりたての日本の国益を守ろうと苦慮する父を案じたり、理想に燃える革命軍大統領のマデロやその弟、拳銃を持った詩人との友情、コーヒー色の肌の美女との秘めたる恋などを通して成長していく、といった内容です。

 堀口大學が、当時、日本のメキシコ大使館に滞在していて、革命の最中に身の危険を察知して逃げてきたマデロ大統領の家族を領事である父がかくまった、という話は本で読んで知っていました。この物語は、その史実をもとに展開しているのですが、話の肉付けは作者である矢作俊彦さんの想像力によるところが多いのでしょう。語り手を主人公の若き詩人、大學に設定してあるので、初々しい感性で捉えた異国情緒や革命の理想といったものが夢見心地のように語られていて、完全にあの時代にトリップした気分になりました。革命の英雄、パンチョ・ビヤや若き日のアメリカ人ジャーナリストのジョン・リード、それに日本大使館に勤める元藩士など個性の強い脇役も見逃せません。

 そしてもうひとつ羨ましかったのが、ここで語られている、当時の美しいメキシコシティの姿です。革命前に40年に渡って独裁を敷いたポルフィディオ・ディアス大統領のフランス趣味のお陰でもあるのですが、花の都パリを模してレフォルマ通りやエレガントな建物が造られたばかりの頃のメキシコシティはさぞや美しかったことでしょう!前にメキシコ通のアメリカの作家、ピート・ハミルが若き日に訪れたメキシコシティはパリよりもニューヨークよりも魅力的な都会だったと書いているのを読んで嫉妬しましたが、今回はもっとです。

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